2012年04月09日

ひとときの隙 =4月9日 記

事故のあった海岸の安楽椅子に寝そべってケルテスは僕に言った。事故の日の数日前だった。「アフリカで野獣ハンテイングをやって年の半分は暮すんだ」。「いきなり成功の道を歩きはじめると
人間はそういう気持ちになるのかな」。僕はケルン歌劇場と市の音楽監督、他、世界の指揮者として歩み始めた彼の横顔を盗み見た。海は穏やかに横たわり、人影はあたりにない。ハンガリーの難民でイタリアに逃げてきた、苦しい過去の刻みは顔のどこにもない。人を従わせる指揮者と言う身分を全身にみなぎらせた中年の精悍な男は、しかし、逆に野獣に襲われたらひとたまりもないだろうと思わせる隙だらけの姿をひととき見せていた。
posted by opera-okamura at 12:42| Comment(0) | 日記